■ハカイダーという存在■

【使命】 【宿命】 【存在の結末】     


キカイダーとハカイダーが他のダークロボットと違っていたのは、
自らの行動を決定する能力があるという点だった。
「俺はお前達のように命令通り動く低能ロボットではない。」(40話)
己の意志を持つことにプライドを持っているハカイダーのセリフだ。

創造者であるギルの命令にも背き、ひたすらキカイダーを追う。
だがその行動は時に、決着を付けることを本当は望んでいないのだろうか と思わせるものだった。
キカイダーを倒すチャンスはいくらでもあったのに、ゲームを楽しむように
デスホイッスルなどという小道具を使ってみたり、わざと見逃したりしていた。
キカイダーを倒そうとすることは、ハカイダーが自ら定めたことであったと言えるのだろうか。
それとも、ギルの命令によるのだろうか。
どちらかであったのなら、ハカイダーのキャラクターは違う印象を与えただろう。



【使命】


胸の回路に指令が走る 俺の使命、俺の宿命 キカイダーを破壊せよ
(石森章太郎・作詞『ハカイダーの歌』より)

ハカイダーを支配したのは、この「指令」だ。
ギルの背き、仲間を殺すことが出来ても、この声無き声から解き放たれることはない。
キカイダーを破壊することだけを目的に作られたからである。
これは悪魔回路のプログラムか。
不完全な良心回路のようなあいまいなものではない。
善なる説得にも、悪の誘惑にも左右されることはないキカイダー破壊のプログラム。
柩から立ち上がったハカイダーにギルが命令を下した。
「キカイダーを殺せ!」
だが、この命令のためではなかった。
純粋に自分の使命のため、キカイダーを追い続ける。
それ以上でもなく、それ以下でもない。

ハカイダーの行動はキカイダー以上に本能的で己に忠実に見える。
キカイダーが「人間を守る・悪と戦う」のは良心回路の判断、
あるいはその作用による正義の心だとしたら、
ハカイダーがキカイダーを追うのは、生まれ持った本能のようなもの、そして
そうせずにはいられない衝動・欲求のようなものだからか。

生まれたときから持っている“キカイダー破壊”の欲求。
悪魔回路による指令と、ハカイダーの意志はイコール(=)のはずだ。
プログラムを解除されるか回路が壊れでもしないかぎりは。
彼は迷うことも、疑問もなく、むしろ楽しみとしてキカイダーを追っていた。
だが、人間が時として自ら意識することなく“思考”に反する“感情”を持つように
あるいは“感情”に反する“行動”をとるように、
ハカイダーの行動にも不可解な点があった。

初戦で決着を付けられず、再び現れたのはサブローの姿であった。
キカイダーを探すのではなく、ミツコ・マサル姉弟に近づいた。
もっともらしい嘘をつき、マサルとジローを引き離すような罠。

 ※同じ39話では、その後にキカイダーとのバイクチェイスがあり、
  ハカイダーは目的地に向かうキカイダーを崖の上から見送っていたりしている。
  つまりマサルにデスホイッスルを使わせることはキカイダーを見つけるためではない。
  何のためか、という推測は別ページで。


力が弱まる人間体になる必要は、もちろん街中でも行動しやすいということも
あるだろうが、 最大の目的はミツコ、マサル兄弟に近づくことだった。
一見、キカイダーとの勝負にはなんの関係もない無駄に見えるサブローの行動。
人間体・サブローになることは“使命”外の自由な行動のように見える。
しかし、マサル達に正体がばれた後、急にいらだちを見せ始める。
姉弟に別れを告げ、サイドマシーンを追う。
「どこかに行きたければ俺と勝負を済ませてからにしろ!」(41話)
もう一つの自分、サブローでいる意味が失われたからだろうか。

だが、ハカイダーにとって、使命のために行動することは喜びである。
そこに疑問や苦悩は入る余地はない。
なぜ“矛盾”する言動をとるのか・・・。
キカイダーとの戦い以外、なんの目的もない存在「ハカイダー」。
それは目的の為に作られた機械=人造人間の悲劇を象徴する。


【宿命】


キカイダーが他の者の手によって破壊されたとき、ハカイダーは自分の宿命をはっきりと悟った。
「キカイダーとの勝負だけが俺の生き甲斐だった」
「そのキカイダーを倒したアカジライガマ!俺はお前と勝負しなくてはならん!」
(42話)

ハカイダーは初戦以降、「殺す」「倒す」という言葉を使わなくなり、
キカイダーとの戦いを「勝負」と言うようになった。
キカイダーを追い、戦うことがハカイダーの生きる目的である。
キカイダーを破壊してしまえば任務は完了する。
「死ぬなよ。簡単に死んでは楽しみがない」(39話)
しかし、宿命のプログラムが「破壊せよ」と指令を下す。
ハカイダーの無意識下での葛藤がサブローの不可解な行動を起こさせ
たびたびの見逃しをさせたのではないか。


ハカイダーはアカジライガマとの戦闘能力の差に意欲を殺がれ立ち去ろうとする。
敵は強くなければならない。
宿敵キカイダーを倒したロボットはあまりに不甲斐なく、
喪失感をひとかけらも埋めるものではなかった。
「俺は・・・仲間をやってしまった」
それまでダークロボットたちを仲間だと思ったことがあっただろうか。
基地を歩けば壁をぶち壊し、ギルの言葉に耳も貸さなかったことでも
ダーク組織に対して尊重の意識はなかったと思える。
すでにギルによってハカイダー抹殺指令が下されていた。
それを知っていて「仲間」という言葉を使ったところに、全てを失ったという絶望が感じられる。


「俺は・・・俺はなんだ!?俺はなんのために生まれてきた!?
 アカジライガマは倒した。キカイダーは死んだ。
 これから俺は何のために生きていくんだ。俺の目的はなんだ。
 こんな姿で、俺はどうやってこれから生きていくんだ!?」


「憎い!俺を作りだしたプロフェッサーギルが憎い!
 ・・・ぬぅぅ・・殺す!ギルを殺す!」


攻撃目標を失った破壊プログラムは彼を発狂させるものでしかなくなった。
「プロフェッサーギル。オマエヲコロス。」
壊れたロボットのような無感情な、繰り返し。
「オマエヲコロス・・・・・」
一瞬前にハンペンに向かって、人間のような絶望と苦悩の言葉をぶつけた姿との
落差が壮絶だった。 しかし、ギルの首を絞めながら再び問う。
「なぜ俺を作り出したんだ」

死の恐怖にさらされたギルは「お前の生みの親は光明寺だ」と告げた。
嘘というわけではない。光明寺の力がなければハカイダーは完成しなかった。

「光明寺はどこだ!俺は光明寺を殺してやる・・」
「ここを開けろ〜!開けろ〜〜」

自我を取り戻したハカイダーは、苦しげに繰り返し叫んでいても拳は力なく扉を叩くだけだ。
弱いやつが嫌いだと言ったハカイダーの
自分が最強であるとい自信に満ちあふれた姿は消えた。
キカイダーを失い、自分の存在価値を失っていた。
「自分はなんのために生まれたのか。自分の目的は何か」
その答えを生みの親に教えて欲しい・・・
殺意に似た憎しみの感情の底には、そういう願望があったのではないか。
行き場を失った破壊プログラムの暴走の行為ではない。
もし狂ったロボットになってしまったのなら、即座にギルを殺していたはずだ。
または、光明寺のいる地下室の扉を一撃で壊せないはずはない。
もしも光明寺に意識があったなら、必ず問うたはずだ。
「なぜ俺を作り出したんだ」と。

光明寺を殺そうと迫るハカイダーにミツコが必死ですがりつき止めようとする。
「あなたのその脳はお父様の脳なのよ!」
「なに・・・」

光明寺を殺せば、自分の脳も死ぬ。ハカイダーはその事実をこの時に知った。
「あなたのその脳をお父様に返して!お父様の身体が元通りになったら、
 あなたをきっと素晴らしい人造人間に作り替えてくれるわ!」

ミツコの必死の説得に一瞬動きを止めるハカイダー。
「だめだ!キカイダーを失って俺は生きる目的を失ったのだ!」
光明寺を殺すことは自分も死ぬこと。
判断力を失っているのでもなければ、自暴自棄になっているのでもない。
それ以外の選択ができるだろうか。

ミツコの提示した救いの道は改造である。
だがそれになんの意味を見いだせるであろうか。
生きる目的を失い、アイデンティティを失った者にとって
ただ命を永らえさせることはなんの価値もない。
改造するということは今の自分ではなくなるということである。

「人」であるならば、長い喪失の時間を耐え抜けば新たな希望を見つけられるかもしれない。
それは何かへの愛情であったり、新しい目的であったりするだろう。
あるいは心の底に「生きたい」という思いがあれば、生まれ変わることを望むかもしれない。
だが彼は機械だ。
人が最後にすがる生存本能や、何かへの執着など持っていない。


【存在の結末】


ハカイダーがミツコを振り払い踏み出したその足を、半身の無残な姿のキカイダーが掴む。
「キ・・キカイダー・・・」
驚きと喜びと混ざり合ったような声。

「お前と勝負してやる。だから博士には手を出すな!」(42話・キカイダー)
同じ人造人間でありながら、キカイダーにはハカイダーを理解することは出来ないであろう。
守るべき人を持ち、正義という名の永遠の使命を持つキカイダー。
キカイダーとの戦い以外に何の存在価値も見いだせないハカイダー。
ハカイダーにとってキカイダーの存在が自分の生き甲斐の全てであり、
それをこの世から抹殺することが使命であった。
彼の選択肢は二つしか用意されていない。
勝負に勝つか、負けるか。
生き甲斐を取り戻したハカイダーは喜々として勝負を要求する。

「勝負」という言葉を使いはじめたころから、
恐らくキカイダーへの本当の殺意は無くなっていたのではないだろうか。

「どこかへ行きたければ俺と勝負を済ませてからにしろ」
「戦いたくなければじっとしていろ!お前の身体をバラバラにしてやる」
(41話)
この二つの苛立ったセリフは、一つは自分の死を意味し、一つはキカイダーの死を意味する。
ハカイダーにとって“キカイダーと勝負すること”が出来れば
勝敗は二の次になっていることを表わしているのではないだろうか。

勝敗の答えのでない勝負だった。
ハカイダーが追いつめれば何らかの理由を付けてとどめは刺さず、
キカイダーが優勢になれば隙をつかれて勝負は放棄される。
ハカイダーは意識せずにその永遠の構図を作り出してしまっていた。
しかしキカイダーにとってはそうではない。
ハカイダーの脳を奪わなければ、光明寺はもとに戻れない。
ハカイダーとの勝負を避け続け、いったいどうするつもりだったのか。
その難題に自分で答えを見つける前に「永遠の追いかけっこ」は終わるのだが。


人間体でのまだるっこしい戦いに嫌気が差したハカイダーが戦闘モードでの勝負を要求する。
変身回路が壊れたままで、キカイダーになれないジロー。
そこへアンドロボットたちがなだれ込もうとする。
「邪魔をするな」と両手を広げて入り口に立ちふさがるハカイダー。
再び得ることの出来た“勝負”を守りたいのだ。
敵であるジローに背を向けて立っているハカイダーの後ろから飛びだし
ジローもまた、ハカイダーに背中を預ける。
互いを信頼した同士でなければ出来ない布陣だ。
ハカイダーが正面一対一の勝負以外を決して望まない(行わない)ことは ジローにも充分わかっていたということだろう。
包囲を突破し、通路にでると分離してそれぞれに退路を求めて進む。
敵中で背を預けることはしても、馴れ合いで「一緒に戦おう」という関係ではない。
二人が無事基地を脱出していれば、いずれまた終わり無き勝負が始まるだけだったのだ。


だが、ハカイダーは白骨ムササビの一撃必殺の攻撃を受けてしまう。
「どうせ殺られるのなら、俺はお前に・・お前に殺られたかったぜ。キカイダー」

勝負をつけられなかった悔しさの言葉でも、キカイダーへの友情のようなものでもない。
これはハカイダーにとってキカイダーとの戦いが存在の(人生の)全てだということを
最も純粋に象徴しているセリフだ。
彼には始めから“存在意義の崩壊”か“死”という結末しか用意されていなかったのである。
キカイダーを失い苦しんだ姿を思えば、“死”は安らかなものだったかもしれない。
“勝負”の結末としての“死”であれば だが、
それは光明寺の脳を持っているかぎりかなわないものだった。


***
【追記】 ハカイダーは苦悩するキャラクターではない。
思考も行動もシンプル、ニヒルとはほど遠いひたむきで熱い性質の持ち主だと思う。
このことは私のハカイダー像で重要なことなので念のため。
ハカイダーの存在の悲劇性について書いたことは、全て“彼が意識していた”事ではなく、
彼の存在が現していた”悲劇である。


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※以上の解釈はすべて演出上の問題は考慮に入れず、すべての行動をキャラクターとして扱っています。
深読み具合を味わって下されば幸いです。





 





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